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賃貸リノベーション企画開発者インタビュー【エイムズ 松島力氏】

賃貸リノベーションの新しい形を模索しながら物件開発や事業企画を手がける、新賃貸アライアンスチームのエイムズ代表取締役・松島力氏に、賃貸リノベーションの現状やご自身の事業、今後の「新賃貸」のあり方について、お話をうかがいました。

賃貸市場に関する課題認識、解決に向けた考え方

7R8A4871賃貸市場は、人口増による需要過多の中、これまで供給サイド目線のビジネスでしたが、2010年ごろに人口がいよいよ減少に転じ、業界の転換期にきています。
その様な市場の転換期に、異業種の先進事例を取り込めると、より面白いことができるのではないかという切り口で、エイムズを立ち上げました。

今の賃貸業界の根底には、大手ハウスメーカーがコストやメンテナンス費用の軽減を重視した仕様の同じような賃貸住宅を造り続けるという大量供給時代の形があります。いずれ家を買って引っ越すまでの仮住まい的な位置づけのものでした。
そのため、同じ住まいでも賃貸と持ち家では仕様や品質に大きく差がある、全く別物のような状況になってしまい、このことに入居者様は非常に不満に感じています。

また、人口減少に伴い昨今は空家問題が台頭し、これまで入居付けが出来ていたエリアでも、築30年を超えると3~4割が空いているのも当たり前になってきています。
そうすると、オーナーさんもお金がまわらないし、まわらないと再投資もできないので、どんどん建物は老朽化していく。「どうせ家賃は安いし、再投資もできないからいいよ、このまま放っておこう」となる。すると、入居者様の審査も緩くなり、滞納が発生したり、共有部や室内が荒れてきたりして、周囲からのクレームが増え、それが退去を加速しさらに廃墟化が進んでいきます。
都心はまだいい方ですが、東京都下でも沿線地区ではゴーストタウンのように空室化が進んでいるところもあります。
その様な状況に目をつぶり、需要が増える前提での新築供給を続けても、いずれ築年数が経てば空室になり、オーナーさんも再投資ができず、賃貸経営が破綻するのは目に見えている状況ではないでしょうか。

我々が考えているのは、最終的なお客様である入居者様とお部屋を提供するオーナー様が共に満足し喜んでもらうこと。そこを見据えて、質の高い、「いい部屋」を提供できれば、入居者様を満足させ、増やすことはできると思います。家を買うお金を貯めるぐらいなら賃貸で好みの部屋に住みたいという方はもちろん、今まで家を買おうと思っていた方でもこんな部屋があれば賃貸でも全然いいよね、となってくれる。
皆さんお金が無いわけじゃなくて、住みたい部屋がないだけなんです。

「いい部屋」にお金を払っていいという入居者様が増えれば、オーナー様も再投資してお金をかけてもいいという、循環が始まります。
一口にお金をかけるといっても、建替えして、また同じ様な新築を建てるのではなく、昔ながらの味のある建物を活かし、街並み、景観も含めて維持しながらリニューアルしていく。
どこに行っても、同じハウスメーカーの建物やチェーン店が軒を連ねる街並みではなくて、味のある建物を増やしていくことで、街の表情を作っていくことができるのでは、という想いもこの事業立ち上げの一つの理由です。

こういった人口増加時代の名残りで、土地があれば需要が無くても賃貸経営を提案したり、古くなったらすぐ建替えを提案したりする賃貸業界の考え方や、実需とは別ものとする賃貸住宅の住環境に不満をもっているのは入居者様に留まらず、実は賃貸業界内にもたくさんいて、我々の事業に共感して頂ける声を多く聞くにつけ事業の意義を感じますし、今まで手付かずだったマーケットであることを非常に強く感じています。

eims Craftを考えたきっかけ

7R8A5013人口は減少に加えて、賃貸への不満からマイホームを購入し、賃貸生活を卒業していく方が多いことが、賃貸需要の減少に拍車をかけていますが、逆に言えば、賃貸住宅の魅力が高まれば賃貸需要を増やすことができる、または減少を抑えることができます。
空室になっている築古物件の、築古ならではの良さを残しつつお部屋を改装することで魅力付けができれば、そういう部屋を借りたいというニーズはある。築古物件は空家の大部分を占め、需要が全くないと思われているので、築古でこそやってみるべきという思いがありました。

一般的な築古のリフォームというと、和室を洋室にして、床はクッションフロアかフロアタイル、壁はクロス張替え、建具にはカラーシートを貼って終わりというものが多く、きれいにすればいい、ちょっといじって完成というのが多い。
そうすると、表層的な部分のみのリフォームなのですごく安っぽく仕上がりますし、それに入居者様が築浅並みの賃料を払うのかといったら難しいでしょう。
華美なもの、原色を使って派手に印象付けるのではなく、シンプルだけど質感のいいもの、素材感のあるものを使った部屋を提供して、あとは入居者が自分でデコレーションすることで部屋が完成するというコンセプト。シンプルだけど作り手の職人技や想いが伝わる様な部屋ということで、「eims Craft」というブランドをたちあげました。
コンセプトは飽きの来ないもの。今後10年、15年賃貸として運営していくことを考えた時に、あえて時代の先端をいかずにベーシックに、飽きずにすたれないものというコンセプトで、自然素材の無垢材を使いつつ、職人技が活きる造作キッチンや作り付け収納を定額料金で提供していることが、大きな特長になります。
床材のフローリングは部屋で一番面積が大きく、入居者が一番長く触れる部分であるため非常にこだわっています。その他、スイッチとか照明といった小物類、あとはキッチン周り、そういったものにもこだわりを持って作っているブランドです。
ネーミングの「eims Craft」は、安価な大量供給施工ではなくて、作り手である大工職人一人一人の想いが伝わる部屋を提供したいとの想いから来ています。

eims Craftの魅力

7R8A4962今までの賃貸ではどうしても、駅から近いとか、築年数とか、広さというような、客観性のある評価基準をもとにお部屋選びをする世界だったのですが、そうではない判断軸が提供できると思っています。
内装とか、素材感、デザインといったところで、自分の生活スタイルやこだわりのある方に、どういうところに暮らして、どんなインテリアを置きたいのかといったところで部屋を選んでもらうというご提案です。
それに賛同していただけるのは、部屋の内装だったり素材感だったりを大事にする方。普通のフロアタイル、ビニールクロスじゃ安っぽいよね、ちょっと違和感あるよねというような方が多いですね。
賃貸でこういった面白い物件があるのなら、ちょっと住んでみたいとか、将来的には自分で家を買って住みたいけど無垢床ってメンテナンス含めてどんなものなのか体験してみたいとか、そういった方もいらっしゃいます。

そもそも、今まで賃貸には無垢床という素材がほとんど使われていないため、素材自体の存在を知らない方が多い。賃貸の部屋って床はクッションフロアで壁はクロスだよねというような固定観念があるので、それ以外の素材を知らないっていう方も多いんです。

内装に興味を持って我々の部屋にきてもらって、「じつは無垢っていう素材がありまして」っていうところから始めて、実際に床を歩いてみてもらう。このオフィスもそうなんですけど、一度無垢フローリングに住むと、もう床がぶよぶよしたクッションフロアには戻れないと言われます。やっぱり入居者にも住まいの素材から興味関心を持ってもらいたいと思っています。

入居者層

「eims Craft」ではリノベーション後に一部案件について、リノベーション、デザイナーズ賃貸に特化したお部屋探しサイト「R-STORE」(アールストア)にて、入居者募集をして貰っていますが、入居者様は、20代半ばから30代後半ぐらいまでの方がメインです。
住宅やインテリアにこだわりのある方、ライフスタイルに関心のある方が多くて、初期のiphoneユーザーのように、アーリーアダプターとかインフルエンサーとか言われるような方々です。
新卒とか学生の方もいますが、どちらかというと経済的にある程度の余裕のある社会人2~3年目以降のイメージ。今までも賃貸に住んでいた、もしくは親御さんのところに住んでいたけれど、社会人2~3年目で貯金も増えてきて、自分らしい生活をしたいとか、自分らしいこだわりの場所を持ちたいという方が非常に多いですね。
お客様の比率は単身とカップル・ファミリー層では3対1ぐらいで、単身での男女比は半々です。ただ、男性のほうが少し余裕もあって、単身で家賃を10万以上出せる方というと男性の方が多かったりするので、基本的には高価格帯になるほど男性が多い様です。

お部屋の見せ方、情報の出し方の工夫

7R8A5006大手の不動産サイトでは賃貸情報の掲載件数で競っていて、たとえば「HOME’S」では500万件以上、というのを売りにしています。そのため、サイト設計上、利用者がお目当ての物件にいかに簡単に辿り着けるかという点を大事にしていますよね。
基本的には新築も築古も内装はあまり変わらず、設備がどんどん古くなっていくだけという感覚なので、一番分かり易い築年数で物件を絞り込んでいく構造になっています。

リノベーション専門のお部屋探しサイト「R-STORE」(アールストア)の場合は、築年数に関係なく、いいと思ったお部屋を絞り込んで掲載しているので、築年数は参考程度にしかなりません。
基本的には内装で選んでもらう。どういったお部屋なのか、リノベーションなのか、デザイナーズ、ヴィンテージ感があるのか、戸建てか、借景がよくて緑が見えるとか、商店街が近いか、そういった周辺環境を含めて、部屋の特長で選んでいただいています。あとは駅からの距離、広さで絞り込んでいく。逆に築年数が古い方がいいという方もいるため、「築31年以上」という検索も出来る様になっています。
また、お部屋探しの方だけじゃなくて、部屋の中を写真で見て楽しんでもらえる、内装の参考にしたいという方もよく見に来ていただくようなコンテンツや、ちょっとした街歩きの記事を載せたり、過去に部屋探しをお手伝いした入居者様の入居後の様子をインタビュしたり、あとエリア特集だったり、読み物としても楽しめる様なサイトになっています。

次の一手

7R8A4951地方展開も含め、いろいろな展開があると思いますが、サービスのレベルで言うと、短期貸しを進めていきたいと思っています。
というのも、前述の通り、今後長い目で見たときに、賃貸の利用者数が増えていくことはありません。一方で、シェアリングエコノミーの広がりに見るように、消費者の保有欲が薄れてきています。着物、ドレス、ブランドのバッグを買わないでレンタルできるとか、自動車を買う若者は減って、カーシェアで1、2時間借りれば十分でしょとか、そういったマーケットが非常に伸びています。
消費者にとっては、必要なときに必要なものだけあればよくて、使っていないときまで維持して面倒見なきゃいけないのは大変というのがある。そういった観点で言うと、不動産はその本丸だと思います。
賃貸だとどうしても、1年以上とか2年以上の契約なので、そう簡単に変えることができなかったり、賃貸契約上も初期費用は戻らなかったり、解約にはいろいろ縛りがあったりしますが、もうちょっと短い期間で気軽に借りられるような、短期、時間貸しというものを試行錯誤的に始めています。

我々のお客様でいうと短期貸しとしては3パターンぐらいあって、一つは住んでいる家をリフォームするので、1ヶ月間とか2ヶ月間の工事期間中だけ借りたいという方や、賃貸で入居予定のお部屋がまだ工事中で、1ヵ月間だけ住まいを探さないとけない方に利用して頂くいわゆるマンスリーマンション的なかたち。
次に、出張で1週間とか2週間滞在したい方を、ウイークリーマンションに近い形で受け入れていくとか、もっと短いと旅行者の方、特に最近、訪日旅行者が急激に増えてホテルがすごく足りなくなってきているので、そういう方々にちょっと使っていただくというのがあります。
あと、3つ目は立地が非常に大事になってくるのですが、時間貸しというのもあります。
女性のネイルサロンとか、料理教室とか、自分で投資をしてお店を持つまでいかないけど、予約が入れば定期的に場所を借りてやりたいという方。オープンキッチンにした物件などは、貸切パーティーをやりたいといった方向けの時間貸しというのも考えています。
時間でいうと月単位で借りられる方もいらっしゃれば、週単位とか時間単位もあって、いろいろなバリエーションで場所をご提供していくというものです。

このような短期貸しをすることで、オーナーさんは、賃貸より高く貸し出せるんですね。
たとえば、1Rを8千円/日で貸し出して、月の8割稼動したら、単純計算で20万円弱。今1Rで家賃10万を超える物件はほとんどありません。
一方でシティホテルは13平米ぐらいでキッチンもないですし、バルコニーも無くてベッドと3点UB以外何もないお部屋で1日1万円とか。そんなところに1週間いたら、けっこうストレスがたまりますよね。それなら18平米ぐらいあって、広めの3点UBがついていて、簡単な料理のできるキッチンもあってバルコニーもあれば、暮らしの質が断然高くなる。オーナーとしても賃貸の2倍、2.5倍稼げるかたちになります。
もちろん、都度都度の清掃の手間や、家具、家電など最初にある程度の投資がかかりますし、本当に集客可能か、というところもありますが、それでも場所によっては、時間貸しをしていくことで、お客さんのマーケットも広がりますし、大きな収入が見込める機会も相当あるのではないかなと思っています。
もちろん、事業として継続的に運営していくためには法整備が必要で、すぐにというわけには行きませんが、2016年度より大田区や大阪府ではある一定の要件を満たす物件について旅館業法の適用除外とする条例が施行されるなど、一部で整備が進みつつあります。

新賃貸に向けて、何を変えなくてはいけないか

まずはオーナー様と入居者様の距離が遠いというのが、賃貸業界の一番の問題点ではないかと思います。これまで賃貸業界は人口が増える売り手市場であったため、売り手側の効率化を追求した結果、管理会社は管理だけ、仲介会社は仲介だけ、リフォーム会社はリフォームだけと水平分業が進み、入居者様のニーズが意思決定者の作る側、オーナー様に伝わり難い仕組みになっています。
入居者と接しているのは仲介会社さんだけで、作る側や管理会社様は入居者のことを知らないから、オーナー様だけ見ていればうまくやっていけるし、逆に仲介会社様はオーナー様への責任がないから、入居者様が簡単に決めてくれてトラブルも少ない築浅物件を紹介するだけ。
入居者様とオーナー様の距離が遠いことが、ニーズのミスマッチを起こし、結果的に家賃もどんどん下がり、空室も増えて、オーナー様がまわらなくなっている。
まずはそこを近づけなければいけないと感じていますし、やり方を変えていかなければいけないと思っています。
たとえば、入居者さんの声を直接オーナー様にフィードバックするとか、逆に入居者様のニーズを踏まえた改修のご提案をオーナー様にしていくとか。
オーナー様も管理会社様に任せておけばいいというのでなく、入居者様、利用者の声をいかに拾い、応えていくことが、今後の新賃貸では非常に大事になっていくと思いますね。

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